北村真行展　−絵画の水平面− 　 《断章−絵画の水平面−》 重力に抗い屹立する人間に呼応するよう、絵画もまた鉛直の壁に架けられる。 重力に従い横へと広がる液体は、常に鉛直に対し90度の関係としてある。 水平面に対する絵画の鉛直性は誰も疑わない、自明性としてある。 ただし、いくつかの絵画は不思議なことに、液体を媒材とするため水平な状態で描かれる。 自分の絵画もまた、下地作業はもとより、箔を置く作業まで延々と水平な状態の作業である。 水平に置かれたその 『板』 はいつしか立ち上がり、 『絵画』 らしきものに変容する。 『板』 から 『絵画』 への変容の契機とはいかなるものか…。 モネの描く 『水面』 は時として画面全面を覆い尽くし、前後の奥行きは圧縮され、水面が屹立して見える作品が晩年に多く存在する。 自分の作品における銀箔の使用も時として水面のイメージとして使用される場合がある。ただし、その銀箔面は全く画面の鉛直面に 『貼り付き』 、イリュージョンとしての奥行きは皆目排除され、剥き出しの鈍く光る 《物質》 としてそこにある。 ギリシャ神話におけるナルキソッスは、水面に映る自分＝虚像を凝視し続け、愛し、死んだとされる。 もし、その水面にさざ波が立ったなら、ナルキソッスは果たしてその似姿が 《水面＝物質》 であることを知り、慟哭するのだろうか。 この 《物質》 であり、また虚像という 《幻視》 を映しだす 《水面》 は、絵画装置のメタファーともいえる。